音楽に向かう姿は成就することのない恋に身を滅ぼす男のようだ。しかも歳を重ねたことで、もう風貌からして音楽と微塵も結びつかないものになっている。あんな男が音楽を演ると誰が想像するだろう。

http://public-image.org/column/2011/11/01/ecdholiday42.html


30数年前と同じく僕は客席から山崎春美を観た。頻繁にする舌なめずり、虚空を彷徨う視線、そうした山崎春美の挙動の細部ひとつひとつに当時と同じように僕の目は吸いつけられた。それは、目の前でわめいている山崎春美の精神状態が少なくともステージ上の今、当時のままだという証拠のように自分には思えた。自分に音楽の才能があるなどと夢にも思えなかった僕がついに音楽を始めることになったのは、やはり音楽の才能があるとは思えない山崎春美が音楽を演っている姿をまだ音楽を演ってはいなかった自分が観てしまったせいだった。山崎春美が音楽に向かう姿は成就することのない恋に身を滅ぼす男のようだ。しかも歳を重ねたことで、もう風貌からして音楽と微塵も結びつかないものになっている。あんな男が音楽を演ると誰が想像するだろう。