何かを思い出す。月がきれいだった。彼女はそれを口に出す。月がきれいだ。彼女は雨戸をひらく。月がきれいだった。

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私の小さいおうち、私の簡潔な空間、私の巣穴、私の廃墟、私のコインロッカー


私の好きなアメリカ人の作家は日本人についてのくらくらするようなうつくしい文章の末尾にその比喩を使った。


「そして彼らはコインロッカー大の家に帰り、二時間後には出勤する」



私の上長がコーヒーを好きで、私とそれから私の後輩がやっぱりどうしようもないコーヒー好きで、それだから私たちは私費を投じ(この大げさな物言いを私たちは好んだ)コーヒーメーカを導入した。



彼女は彼女の血族にあってただひとり、小さい子どもも遠慮すべき誰かも義務としての家事も持たない人間だった。



景色だけがそのままで、私は、ひとりでした。



着信音がして彼女は我に返る。何かを思い出す。月がきれいだった。彼女はそれを口に出す。月がきれいだ。彼女は雨戸をひらく。月がきれいだった。